ニュースの概要
合成紙「ユポ」で知られるユポの社長へのインタビューが、dメニューニュースで紹介された。見出しが示すのは、値上げに応じない顧客は無理に追わず、取引から退くことも辞さないという姿勢である。原材料やエネルギー、物流の費用が上がる局面では、価格を転嫁できない取引を続けるほど、売上は増えても利益が細る。同社は量を守ることより、価値に見合う対価を払う顧客との関係を優先し、収益体質を高める道を選んでいるとみられる。「撤退の流儀」という言葉には、ただ切るのではなく、順序と理由を持って退くという含みがある。本稿では、インタビューの細部には立ち入らず、この考え方が一般の企業経営にどう生きるかを整理する。
引用元: 値上げに応じない顧客は追わない ユポ社長に聞く、高収益化するための「撤退の流儀」(dメニューニュース)
分析・見解
値引きで増やした売上が利益を生まない理由
値上げに応じない顧客を追わない。この方針は冷たく見えるが、数字で見ると筋が通っている。たとえば利益率が10%の製品を5%値引きすると、1個あたりの利益は半分になる。同じ利益を取り戻すには、販売量を約2倍にしなければならない。値引きで増やした量は、利益をほとんど生まない。
さらに、安い取引ほど手間が減るわけではない。見積もり、納期調整、小ロットの生産切り替え、クレーム対応は、価格に関係なく発生する。こうした見えにくい費用を足すと、赤字に近い取引が意外に多い。「売上が伸びている」ことと「儲かっている」ことは別の話である。
合成紙は価格交渉で強い立場に立ちやすい
ユポの合成紙は、紙の手触りとフィルムの強さを併せ持つ素材である。水に濡れても破れにくく、ラベルや屋外ポスター、地図などに使われる。普通の紙や樹脂フィルムでも代用はできる。ただし、印刷機の設定や品質の確認をやり直す手間がかかるため、顧客はすぐには乗り換えにくい。
この「乗り換えの面倒さ」が、値上げを求める力の源になる。ただし力は自動では続かない。用途ごとに、なぜその価格なのかを示し続ける必要がある。大手が価格を改める動きは、市場全体に相場が変わった合図を送る効果もある。
撤退は切り捨てでなく顧客の選別で進める
撤退を成功させる鍵は、顧客別の採算を正確に把握することだ。売上の大きさではなく、手間や在庫の負担まで引いた利益で並べ直す。すると、上位だと思っていた顧客が下位に沈むことがある。
似た例が物流にある。ヤマト運輸は2017年に運賃を見直し、荷物の量を抑える判断をした。短期の取扱量は減ったが、現場の負担を下げ、適正な料金へ移る契機になった。値上げと撤退は、同じ方針の表と裏である。撤退の順番も大事だ。最も採算の悪い用途から交渉を始め、代わりの販路が育つ時期に合わせて段階的に進める。
撤退宣言が逆効果になる条件も見ておく
この戦略には前提がある。第一に、自社の製品が本当に代替しにくいこと。第二に、残る顧客だけで工場の稼働を保てること。稼働が落ちると、固定費の重みが増して利益が崩れる。第三に、評判である。一方的な値上げは信頼を損ねるため、原価の上昇要因を示し、時間をかけて交渉した上で判断する姿勢が欠かせない。
社内の合意も必要だ。営業部門が売上目標を負ったままでは、撤退の判断は現場で実行されない。目標を売上高から粗利益額に切り替えることが出発点になる。
ビジネスへの影響
まず顧客別の粗利益を並べ直して赤字層を見つける
最初の一歩は、顧客と製品ごとの粗利益(=売上から原価を引いた利益)を出し直すことだ。売上から、値引き、運賃、在庫の保管費、特急対応の追加費用まで引く。この作業は経理だけでなく、営業と製造が一緒に行うと数字の背景が分かりやすい。結果は、利益が出ている、ぎりぎり、赤字の三つに分ける。
赤字の層は、値上げ交渉か取引縮小の対象になる。ぎりぎりの層は、発注単位の引き上げや納期の延長など、価格以外の条件で改善できないかを探る。
値上げ交渉は根拠と選択肢をセットで示す
交渉では、原材料や人件費の上昇幅を具体的に示す。そのうえで値上げ幅だけを伝えるのでなく、まとめ買いによる割引や、納期に余裕を持たせた場合の価格など、複数の選択肢を用意する。相手に選ぶ余地を残すと、関係が壊れにくい。期限も決めておく。いつまでに合意できなければ、どの水準で取引を縮小するかを社内で先に決めておくと、現場が迷わない。
担当者の個人技にしないことも大切だ。交渉の経緯と判断基準を文書に残し、次の担当者が同じ基準で動けるようにする。
撤退後の穴埋めと中小企業での応用の仕方
撤退後に空く生産能力を、利益の高い用途へ振り向ける計画が必要だ。新しい顧客を探す期間は、半年から一年かかることも珍しくない。その間の資金繰りも見ておく。社内には、撤退は縮小ではなく、利益の高い仕事に集中するための配置換えだと説明すると、現場の士気を保ちやすい。
中小企業の場合、特定の大口顧客への依存が高いと、この戦略は取りにくい。まず売上の上位一社が全体の何割かを確認し、三割を超えるなら、販路の分散を進めてから交渉に入る方が安全だ。